第38回(2012.05.04更新)

空の大怪獸ラドンにみるピアノ線消去
〜東宝円谷特撮とハイビジョン〜

2012年3月30日(金)日本映画専門チャンネルにて「空の大怪獸ラドン」がハイビジョン放送された。

本編冒頭に「現存する原版の中で最も良好なものを放送いたします。」とのテロップがある通り、東宝から原版を入手し新たにハイビジョンマスターを制作、放送したものとなる。
当然、東宝ブルーレイやDVD用マスターとは別物。1985年8月21日にリリースされた国内初盤LD<TLL2011>と画質の傾向が似ているので、画像補正を行わず原版をほぼそのままハイビジョン化したものと見受けられる。
(※1992年11月1日にリリースされた国内ニューマスター再発盤LD<TLL2388>は既にデジタルリマスター化されて画質はかなり明るくなっている。)

明るく鮮明だがやや平板な印象を受ける東宝Blu-rayと比較すると、一見暗い印象も受けるが、ハイビジョンならではの高解像度により、黒が黒らしく表現され、画面に深みと奥行きを感じる。 さらにDVDで見られた目立つフィルム傷も消去。ブルーレイほど丁寧ではないが、たった数回の放送のために手間暇かけてレストア処理しているのが凄い。

そして何といってもうれしいのが、ラドン操演用のピアノ線がそのままだった事。
ご存知のように東宝ブルーレイはラドン操演用のピアノ線を一部消去してしまっているが、「史料的価値」から考えれば、ピアノ線は写っていて当然。

「空の大怪獸ラドン」は、着ぐるみ怪獣を吊り上げ空を飛んでいるように見せるというワイヤーアクション技術を、特撮手法として初めて大々的に使った作品である。そして、当時のスタッフも撮影したフィルムを見てピアノ線が写っている、見えていると認識し、ピアノ線に色を塗るなどして見えにくくするという手法を使った結果で、円谷英二も容認した上での事。
円谷特撮にとってピアノ線によるワイヤーアクションは必要不可欠な制作手法だったのである。
フィルム傷やノイズとは違い、ましてやNG映像だったわけでもない。
これが当時、日本が世界に誇った円谷特撮の姿だったのである。

情報量が多いフィルムにはそれだけのものが写っているという事。見え過ぎているのでもなく、写っていないものが写っているわけでもなく、完成フィルムがより忠実に再現されているだけ。

だからこそ、たとえピアノ線一本といえども無きものにしてしまう事は許されないのだ。

円谷特撮の魅力は広大で緻密なジオラマを、ものの見事にぶっ壊す個性的な着ぐるみ怪獣たちの暴れっぷりにある。
たとえハイビジョンの高解像度化により粗がみえ、ピアノ線や合成がバレバレになったとしても、ミニチュアの作り込みの緻密さ、着ぐるみ怪獣の造形の細部まで視認できる恩恵の方がはるかに大きい。
さらに言えば、円谷特撮はミニチュアを前提に見ている人がほとんどで、実景のようなリアルさを求めて見る人はまずいないのではないだろうか。

まだ一般家庭にテレビが普及していない当時の映画、プログラムピクチャーは最高の大衆娯楽だったのだが、(黒澤作品など一部の特例を除き)その実、消耗品でもあったのだ。上映が終了してしまえば終わり。
だから多少の画面の粗などにいつまでもこだわってはいられなかったのだ。
ビデオが普及する前のテレビ番組もしかり。
「空の大怪獸ラドン」が作られた1956年の映画産業とはまさにそういうものだったのだ。

現在の技術をもって修正するならば、あくまでもオリジナルはオリジナルとして残し、修正版、特別版などとして作るべし。
当時のスタッフが見れば修正したかっただろうというだけでコンセプトもメッセージも無く、それもただ修正しやすい部分だけ消去するという中途半端さ。これはおよそ愚行と言わざるをえない。

「スター・ウォーズ特別篇」も決してオリジナルにはあらず。
ダース・ベイダーにいくら「ノー!」と叫ばせようともそれが許されるのは「特別篇」だからこそ。また百歩譲って、「特別篇」がオリジナルであるというのも、スター・ウォーズ産みの親であるルーカス監督だからこそ言える事なのである。

映画は文化であり、時代を映す鏡。
そして、その映画に出会った人それぞれの思いもまた映画の一部として残るのだから。
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