第15回(2002.03.17更新)

「シャドウ・オブ・ヴァンパイア」と元祖吸血鬼映画「ノスフェラトゥ」
ヴァンパイア映画の歴史 -その1-

1897年に出版されたブラム・ストーカー(1847年-1912年)原作「吸血鬼ドラキュラ」の映画化権を獲得できないままフリードリッヒ・ウィルヘルム・ムルナウ(1888年-1931年)が、役名と場所を変える事により、なかば強引に映画化した1922年の元祖ドラキュラ映画「ノスフェラトゥ」。結局、ムルナウの創ったこの映画「ノスフェラトゥ」は、内容的にほとんどブラム・ストーカーの原作と同じであった為、遺族であるストーカー夫人フローレンスより著作権侵害で訴えられ、約3年の裁判の結果、敗訴。映画公開の中止いわゆるお蔵入りとなっただけではなく、フィルムの破棄をも命じられる事となり、永遠に葬りさられる運命の作品となったのである。
しかし、いつの時代にも見てはいけないというものは見たくなるという人間の心理と、この作品に対する製作者達の思い入れが一致したのか、破棄を免れた一部のフィルムが今でいう海賊版として、原作の著作権保護期間(法的にはアメリカ・ドイツは死後70年)が切れる1982年まで保管され続けた。そして、その後の映像作家に影響を与え続けていたのである。
この「ノスフェラトゥ」という作品には、こうした幻となるべき運命をくぐりぬけてきたあやうい歴史と、作品自体の怪奇ロマン的な内容とが相まって、より神秘的なイメージがうえつけられたのである。

  NOSFERATU/米国盤DVD
  ●NOSFERATU
A SYMPHONY OF HORROR

NOSFERATU, eine Symphonie des Grauens(原題) 2001年1月2日 Image Entertainment 81分版 リージョンコードフリー
 
35mmマスターを使用し、主に昼間及び室内をセピア、夜中のシーンをブルートーンに彩色した修復版(モニター調整で通常のモノクロ版にも復元可能)。ドイツの映画評論家(?)によるコメンタリー、エレクトリックオーケストラ(ドルビーデジタル5.0CH)と、オルガン演奏(ステレオ)の2種類を選択できる音楽付、撮影当時のロケ地と、今も残るロケ地を写真で見比べるドキュメント、マックス・シュレックの他作品の貴重なスチール。そして、極めつけ、フッター(ジョナサン・ハーカー)が、オルロック伯爵の馬車で城に向かう途中の森の不気味さを表現する為、ネガ反転させた有名なシーンのオリジナル映像(ポジ映像)がそのまま収録されているといった特典映像満載の米国盤DVD。

ブレーメンの歴史家ヨハン・カバリウスの日記から、1838年ブレーメンに蔓延した疫病(ぺスト)の原因を探るうちに知る事となった回顧録という形式であり、役名も原作とは変更しているノスフェラトゥ、オリジナルバージョン。オルロック伯爵以下、不動産レンフィールドはノック、ジョナサン・ハーカーはフッター、その妻ミナはエレンである。コマ落とし映像によるノスフェラトゥの魔力映像、棺桶から不気味に立ち上がるシーンなど、技術的にはさしたる事もない当時のトリック撮影だが、特筆すべきはコッポラの「ドラキュラ」にも明らかに模倣が見てとれる、影を使った演出である。そして、ノスフェラトゥが現れてから中盤、恐怖に怯え逃げるフッター、妻エレンを狙い船で町に迫るノスフェラトゥ、悪夢にうなされ不安に怯えるエレン、ノスフェラトゥの魔力に操られた狂人ノック、ペストにおかされる町、それぞれの描写が代わるがわるモンタージュで描かれていく見事さ。とても1922年の作品とは思えない出来だ。さらに、今回のDVDに収録されているエレクトリックオーケストラによる効果音楽は、ラストの盛り上がりに大いに貢献して必見・必聴盤DVDとなっている。
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吸血鬼ノスフェラトゥ/国内盤LD
●吸血鬼ノスフェラトゥ
1994年1月21日
IVCリリース国内盤LD

ブレーメンの歴史家ヨハン・カバリウスの日記の回顧録というあらすじは同じだが、オルロック伯爵ではなくドラキュラ伯爵とクレジット表記されているアメリカ公開バージョン。
文字表記の挿入部分が上記米国盤DVDとは微妙に違う。64分版だが、フィルムスピードが速く映像的に大きなカットは無いようだ。また、フィルム傷は修正前のものだが鑑賞に大きな支障はない。音楽はU.S.A BLESS。
ノスフェラトゥ/国内盤LD
●ノスフェラトゥ
国内盤LD(1987年パイオニア)
国内盤DVD(2001年9月26日東北新社)

1979年にウェルナー・ヘルツォークによりリメイクされた「ノスフェラトゥ」。役名のみ原作通りに戻されている。映像作家ヘルツォークも、当然ムルナウの「ノスフェラトゥ」の洗礼を受けていたわけであるが、同じ題材、映像表現をとりながらも、ヘルツォーク独自の映像世界を創りあげている事に映像表現の奥深さを感じる。ノスフェラトゥにはヘルツォーク映画常連のクラウス・キンスキーが、これも1922年の作品と同じメイクで扮している。国内正式公開は6年後の85年となる。
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  さらに、ノスフェラトゥ(不死者という意味)、オルロック伯爵を演じた事により、後世に名を残す事となったマックス・シュレック(1879年-1936年)の存在なくしても、この作品は語れない。のちに吸血鬼役を演じて同じく自身の当たり役となったべラ・ルゴシ「魔人ドラキュラ」(33年)クリストファー・リー「吸血鬼ドラキュラ」(58年)に比べても、その容姿は不気味で怪奇であった(トビー・フーパー監督の「死霊伝説」<完全版DVD発売中>のヴァンパイアもこのノスフェラトゥタイプである)。マックス・シュレックは、当時の役者のほとんどが、そうであったように、もともとは舞台役者であったらしいが、現在においては、ノスフェラトゥ以外、一般的にはほとんど何も知られていない。
そして、そのあまりの不気味さに本物の吸血鬼ではないかと噂されたシュレックであるが、この映画が創られてから80年後の今、現代の映像作家たちの手でこの映画の本当(?)のメイキングが製作公開される事となったのである。
 
シャドウ・オブ・ヴァンパイア/国内盤DVD

●シャドウ・オブ・ヴァンパイア
国内盤DVD 2002年2月20日 ポニーキャニオン
プロデュース/ニコラス・ケイジ
監督/E.エリアス.マーハイジ
脚本/スティーブン・カッツ

本物の吸血鬼だったという設定のマックス・シュレック/ノスフェラトゥを嬉嬉として演じているウィレム・デフォー、映画にとりつかれた狂気の監督ムルナウを演じるジョン・マルコヴィッチ。 吸うか吸われるか(食うか食われるか)という二人の駆け引きと対決が見もの。

撮影の合間、ノスフェラトゥにドラキュラの原作を読んだ感想を聞くと、「何百年か振りに城に訪れた客に、独りでもてなしの食事の準備やベッドの仕度をするドラキュラの姿を思い浮かべ、哀れでならない。パンの買い方も覚えていたのだろうか…」と答えさせるブラックユーモアのセンス。

オリジナルの「ノスフェラトゥ」で、もっとも影の演出が効果的だったエレンの部屋への階段を上がっていくシーンと、ロケ地で吸血を我慢できずエレン役のグレタの部屋へ忍び込もうとするが、鍵がかかっていて情けなくあきらめる影のシーンとが同じであったり、「ノスフェラトゥ」を知っていればいるほど、楽しめる映画でもある。

リメイク以上にオリジナル版への愛情が感じられる作品だが、決してホラー映画ではない。異様なノスフェラトゥの行動に凄い役者だと勘違いをするスタッフ、その毒気にあてられていく監督の混乱ぶり、実際のシーンと映画が混同していくクライマックスなど、なかなかの作品である。ちなみに、ウィレム・デフォーが、ラスト、グレタの血を吸う場面で胸をまさぐるのはヘルツォーク版からの流用と思われる。解説やメイキング映像、予告編などの特典付。
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