第5回(2001.01.21更新)

「科学が生んだ悲劇/変身人間物に人間の愛と本質を見た…」

 

科学の犠牲になり、人間が自らの意志に反し異種生物やグロテスクな容姿に変形してしまう変身人間物…。人間に繁栄をもたらすはずである科学が、その誤用や失敗により悲劇を生む。
そしてその悲劇の演出こそが変身人間物の重要なテーマとなり命となる。

今回のコラムはその変身人間物が描いた「悲劇」に迫る…。

まずはやはりクローネンバーグ監督作品
そのいずれの作品も変身または変化してしまった人間、特殊・異常な能力を持ってしまった人間の悲しさ、切なさに溢れた秀作ばかりであるが、特に「ザ・フライ」(86年)が印象深い。

「ザ・フライ」(→ジャケットはここをクリック)…この作品の主人公セス・ブランドルも科学の犠牲者である。 物質転送装置の人体実験中の事故によりハエ男に変身してしまう科学者セス・ブランドル(ジェフ・ゴールドブラム)とその恋人べロニカ(ジーナ・デイビス)のあまりにも悲しくて恐いラブストーリー

変形していくセス・ブランドルと、それをうろたえとまどいながらも支えようとする恋人べロニカの愛を軸に、アカデミー賞特殊メイクアップ賞に輝いたクリス・ウェイラス(レイダース、グレムリン等で有名)のSFXメイクが、グロテスクなハエ男に変形していくセス・ブランドルのさまをショッキングに見せる。

心配するベロニカに、理性までコントロールできなくなる恐怖にかられ「もう、俺にかまうな、逃げろ!殺すぞ…」と、言い放つブランドル=フライ。
しかし、「人」でなくなる恐怖に苦悩し、行き場所のなくなったブランドル=フライは、ついにベロニカに助けを求め「君と僕と子供と、合体して一緒になろう…、そうすれば今よりは人間らしくなれる」と懇願する…。
ラスト、物質転送装置と合体してしまい、もはや歩く事も出来ないおぞましい物体以外の何ものでもなくなったブランドル=フライを殺す事に、それでも躊躇しているベロニカに、自ら「殺してくれ…」と悲痛なメッセージを送るブランドル=フライ。
病気に冒されるように、愛する「人」が「人」でなくなるのを、ただ見守ることしかできないベロニカ…。

科学・テクノロジーのゆがんだ進化が生んだ悲劇を、究極のラブストーリーに仕立てた傑作である。
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※ジェフ・ゴールドブラムとジーナ・デイビスの二人は日本未公開ながら「ザ・フライ」のヒットにより、国内盤LDが発売されたTRANSYLVANIA 6-5000/突撃バンパイア・レポーター」(→LDジャケットはここをクリック)(1985年)以来の本当の恋人同士であった。
この「突撃バンパイア・レポーター」は、ボケ役のエド・ベグレー・Jrと、ツッコミ役のジェフ・ゴールドブラムのおとぼけコンビ(死語?)が活躍するノーテンキなホラー・パロディコメディ。
※当初この「ザ・フライ」は物質転送実験の研究チームや、スポンサーが名前だけではなく実際に登場するという設定であり、バーホ−ベン監督の「インビジブル」と非常に設定が似ていた。
※「ザ・フライ」のオリジナル版であり、SFホラーの古典的名作といわれているオリジナル版「ハエ男の恐怖」(→ジャケットはここをクリック)(1958年)は、劇場未公開ながらもテレビ公開時には多くのSFファンの心をつかんだ。
 


そして、最近でも透明人間をテーマにして強い印象を残したバーホ−ベン監督の2000年、新作「THE HOLLOW MAN/インビジブル」もまた科学の犠牲者である。

姿が見えなければ殺人や盗みは思いのまま…
人間の本質は、果たして悪か?というテーマを軸に、驚異のCG映像で繰り広げられる、そのインパクトあるビジュアルが凄い!小説などでは決して表現できない映像だからこそのビジュアルショックは、映画とは見せる物であるとあらためて感じさせる。

このバーホ−ベン監督の透明人間には、死んだ人間が変身させられてしまったヒーロー「ロボコップ」(1987年)のような後に残る悲しさはない…。
しかし、人間の本性は悪であると言いきるバーホーベン監督の、悪魔のささやきに弱い人間だからこそ逆に強く生きていかなければならないという逆説的人間愛を、ここに見る事ができる。
誰しもが思い浮かべる包帯、黒眼鏡という透明人間の容姿で有名な1933年のオリジナル版「透明人間」(ジャケットはここをクリック)は、H・G・ウェルズの原作通りに薬品の副作用で凶暴化していくという設定であったが、バーホ−ベン監督は薬品の副作用というより、姿が見えなければ何でも思いのままになると考える人間の本性をあらわにする事の方に重点を置いている…。

透明化人体実験で元に戻れなくなったセバスチャンもまた、やはり科学のゆがんだ進化にのみこまれてしまった犠牲者である。

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※削除されたシーン、メイキング、コメンタリーなど特典映像満載の「THE HOLLOW MAN」北米盤DVD(ジャケットはここをクリック)
※透明人間のお約束、包帯巻き上げ登場シーン、動く足跡、無人自転車などはオリジナル版「透明人間」(1933年)で見る事ができる。
※寝室に忍び込む透明人間、下着をするすると脱がせるシーンや、胸をまさぐるシーンなどバーホ−ベン監督っぽくて非常に良い…
※国内でも透明人間物は、円谷英二特技監督による「透明人間現わる」(1949年/大映)(特撮映画<秘蔵>シリーズLD)と「透明人間」(1954年/東宝)の2作品があり、さらに「透明人間と蠅男」(1957年)(特撮映画<秘蔵>シリーズLD)などが作られている。
もちろん特撮シーンはあるが、透明人間に襲われる役者の一人芝居的印象が寂しい…。

そして国内では、東宝特撮の変身人間シリーズである。
「美女と液体人間」(1958年)、「電送人間」(1960年)、「ガス人間第1号」(同60年)、さらには「マタンゴ」(1963年)など、どれもみな印象深い作品だが、特に「ガス人間第1号」は、変身人間シリーズの最高作であるとともに、ラブストーリーとしても高く評価されている。 「ガス人間第1号」(本多猪四郎監督/円谷英二特技監督)…
人間の肉体をどんなショックにも高熱にも耐えられるように細胞から改造し、不死身の肉体を造ろうとした佐野博士に騙され、ガス人間となってしまった図書館の事務員、水野(土屋嘉男)。
人体実験の失敗を繰り返し、過去に何人もの人間を殺していた事を知った水野は怒り、佐野博士を殺す。
そして、人里離れた屋敷に住む日本舞踊春日流の家元、藤千代(八千草薫)。
家元制度による人間関係のもつれから、才能があるにも関わらず落ちぶれてしまった藤千代に心を寄せる水野は、ガス人間の力を利用し、銀行強盗を犯し貢ぐのだった。
ガス人間にとって完全犯罪はたやすい事。
思うように社会になじめず、屈折した思いをもっていた水野は、藤千代に自分と同じ境遇をみいだし、藤千代に対する貢ぎ愛という形で社会や人間に対する復讐を正当化しようとしていたのだ。
藤千代は、ただ黙ってその好意を受け止め発表会を開く。
それが最後の発表会であり、ガス人間と自分の滅びの場所である事を知りながらも…。

科学の犠牲者であるガス人間
、屈折した水野の復讐心と、冷たさと情念のこもった藤千代(八千草薫)のキャラクター設定。この両者の極めて特異なキャラクター設定が本作の大きな魅力である。
また、三橋達也演ずる岡本警部補の恋人京子の明るく現代的な性格と、妖しく物静かで古風な藤千代との動と静の対比も効果的で、スリラーとしても、また純粋なラブストーリーとしても、まさに一級と呼ぶにふさわしい見応えのある作品となっている。
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→「ガス人間第1号」の詳細はこちらをどうぞ

「ザ・フライ」のセス・ブランドルは、ハエとの遺伝子融合によって超人的な力を持つが、「人」でなくなる恐怖に苦悩し、愛する人に助けを求める。
「インビジブル」のセバスチャンは、透明になるという禁断の果実と、(薬の副作用によって)超人的な力を得る代わりに人間の醜い本質をさらけだしてしまう。
そして「ガス人間第1号」の水野は、社会や人間に対する復讐を愛という姿を借りて達成しようとし、破滅へと向かっていく。
どの作品も、科学の犠牲者という同じ要素を持っているが、そのそれぞれがまったく違う悲劇を描き、人間の愛と本質に迫る独自の世界を築きあげているのである。

おっと、そうそうメルビン君も忘れてはいけない。悪魔の毒々モンスター/THE TOXIC AVENGER」(→ジャケットはここをクリック)(1984年)の愛あるヒーロー、メルビン君も最高だ。(毒廃棄物だから科学というよりは化学だが…)

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