第31回 (2008.02.11更新)

「人間とハエの融合をハイビジョンで見る… ザ・フライ!」

「猿の惑星」(1968年)のジョン・チェンバース。「エクソシスト」(1973年)のディック・スミス、そして「狼男アメリカン」(1981年)のリック・ベイカー、「ハウリング」(1981年)、「遊星からの物体X」(1982年)のロブ・ボッティンら、ハリウッドの超一流メイクアップアーティスト達が創り上げた神業のような特殊メイクアップ技術。
先人達が開発したその技術のすべてを学び、「ザ・フライ」(1986年)にて、特殊メイクとクリーチャーデザインを担当し、見事アカデミー賞特殊メイクアップ賞に輝いたクリス・ウェイラス。

「レイダース/失われたアーク」(1981年)、「グレムリン」(1984年)から得た経験と成功の延長線上にあるクリス・ウェイラスのクリエイターとしての集大成ともいえるのが「ザ・フライ」だ。

爪がはがれ、耳が落ち、体が崩れ、変形していく特殊メイクと、メカニカルなパペットを使い操演されたクリーチャー、クローネンバーグいわく"宇宙の虫"ブランドル=フライ。

国内盤レーザーディスクに封入されている解説書には、日本の特殊メイクアップアーティスト原口智生氏によりグロテスクに変形していくブランドル=フライのさまが、戦慄のスペシャル・メイクチャプターとして、そのメイクアップ技術とともに紹介されている。
この解説書を一部参考に、特別編2枚組DVDと米国盤ブルーレイにて初公開された未公開・削除シーンと合わせて、ブランドル=フライの体形の変化、人間とハエの遺伝子の融合記録をまとめてみた
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  ▼▼ ザ・フライ ネタバレあり ▼▼
 
これが人間とハエの遺伝子の融合だ!
 
●毛の生えた傷跡
ブランドル=フライへの変化の最初の兆候だ…
傷跡造形剤というものがあるらしく、それを肌に塗りこんで毛を埋め込んだもの。スクラッチビルドアップ・メイクアップという技法だが、古くは「ノートルダムのせむし男」(23年)等、主にサイレント映画で活躍した“千の顔を持つ男”と呼ばれた怪奇映画初のスター、ロン・チェイニーが得意としていた。また、比較的最近の傷跡と、古傷を使い分ける造形剤もあるとの事だ。
●TYPE-1
ジェフ・ゴールドブラムの顔面に浮き出たシミを、直接ペインティングしたもの。
ディズニーランドなどのフェイスメイクと同じものだが、これも立派な特殊メイクアップの技術だ。

●TYPE-2
ジェフ・ゴールドブラムの顔面にでる吹き出物メイク。ラテックス製のイボを専用の接着剤でくっつけたもの。
映像で見ると、上記TYPE-1のペインティング技術と併用しているのがわかる。

●TYPE-3
水泳キャップのような耳まで隠した帽子をかぶり、フォームラテックス製のマスクをつけたもの。髪の毛もカツラ。DVDのメイキングドキュメンタリーでは、ジェフのメイク中の姿を確認する事ができる。
ブランドルの人間としての遺伝子が、ハエの遺伝子から攻撃を受けて一時的に体が弱まったような設定なのだろう。
国内劇場初公開時に新宿ビレッジ2という映画館で観たが、ベロニカがブランドルに抱きつくシーンでは、日本でも悲鳴が上がった…。
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●TYPE-4
基本的には上記TYPE-3と同じメイク技法を使っているが、髪の毛が薄く抜け落ちたタイプのカツラに変わっている。
耳が完全に無くなり、歯も入れ歯に代えて形状を変えている。両腕にもラテックスでメイクがされている。
DVDの隠しコマンドでは、ブランドル=フライが実演してみせるこの"ハエ男の食事シーン"のフル映像を見ることができる。 →隠しコマンドはこちら
●TYPE-4B ※削除未公開シーン
目元のみ残してフルボディスーツとなった4Bと呼ばれる特殊メイクで、クリス・ウェイラスいわく「ジキル博士とハイド氏」の雰囲気を持つという、もっとも怖いメイクだ。トロントでの初期試写の際に、このシーンで観客が騒然となり"許しがたい映画"とさえ言われ削除される事となった。このモンスタースーツは本編には一度も登場せず、今までスチールのみで確認されていた謎のシーンだった。
製作者のスチュアート・コーンフェルドは、我々は闇の世界に入ってしまい、やり過ぎてしまったとも語っているが、モンスターホラー映画ファンならば必見のシーンだ! →削除未公開シーンはこちら
●TYPE-5
上記、TYPE-4と基本的に同じ技法だが、フェイスマスクが若干、温和になっている。以後メカニカル・ダミーと併用されてラストまで使われている。
歯がボロボロッと抜け落ち、コンピューターがブランドルの声を認識しなくなり、いよいよブランドルは人間でなくなる…。
メイクにかかる所要時間は5時間という。
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●メカニカル・ダミー -1
上記、TYPE-5の顔を元につくられたメカニカル・ダミー。ワイヤーケーブルで眼球、まぶた、下アゴが可動し、5人で操作していたとの事だ。
足首を溶かすメカニカル・ダミーもこれの流用のようだ。
●メカニカル・ダミー -1 ※削除未公開シーン
公開当時、写真週刊誌フラッシュに掲載された際のスチールや、スターログ日本版のNO.100、1987年2月号の表紙を飾ったスチールなどで知られる"奇妙な舌を出しながら、消化液で溶かしたボーランズの足首を食べる"映像。
不適切として削除されたものだったが、本ドキュメンタリー上でしっかりと見る事ができる。LDの解説書によるとこの舌は20センチあったとの事。それにしても気味の悪いシーンだ。
●トランスフォーメーション アップ用ハンド
ケーブルワイヤー技術により、ブランドル=フライのツメが延びるシーン。「狼男アメリカン」「ハウリング」で見られるものと同じ技法という。
●トランスフォーメーション アップ用フット
「ターミネーター」「ジュラシック・パーク」等で見られる、歩行するカットで使われるものと同じ技法。メイキング映像で見る限りパペットのようだ。

●メカニカル・ダミー -2
メカニカル・ダミー1と同じく、ワイヤーケーブルで眼球、まぶたを動かす。アゴがちぎれるシーンで使われた。
「遊星からの物体X」的な、モンスターの恐怖を演出しているが、元は人間だったという事を想像すると、物体Xよりも背筋が凍る…

●メカニカル・ダミー -3〜4
眼球や崩れ落ちる皮膚が、メカニカルダミーの3〜4で表現される。
下記 TYPE-6 と同じデザインのメカニカル・ダミーが現れる。
ハイビジョン映像で見ると、潤滑剤が塗られたヌメヌメ感が気持ち悪い。
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●TYPE-6
このタイプから、フル・メカニカル・パペットモンスターとなる。
メイキング映像で確認できるが、画面に写っていないポジションにいる数人のクルーにより操演されている。
もはやブランドルの面影はまったくないが、実はこの大きな眼が悲哀を感じさせる大きなポイントとなった。
●TYPE-7
同じくメカニカル・パペット。セットの床下に隠れているクルーが操演している。
スモークが効果的だが、演出面と床下からの操演がバレないようにする為の両方の意味があった。

●TYPE-7 下半身
テレポッドと同化してしまった下半身のみ。どこかエイリアンを彷彿させるが、表面はコンドームの薄い膜で加工されているとの事だ。

●TYPE-7 爆破用
ゼラチンなどで作られた爆破用の頭部のみ。
  クローネンバーグ監督は語っている。ブランドル=フライの最終形態の大きな眼。
あの大きな眼は、ブランドルの悲哀を感じさせる為の意図的なものだったと…。

このメカニカル・パペットの大きな眼が必死に訴えるのだ、「こ・ろ・し・て・く・れ…」と。
たかが等身大の人形に過ぎないのだが、これが薄っぺらいCG映像にはない空気感をだす。
説得力のあるドラマがベースにあるからこそ、その相乗効果により、観る者は心を突き動かされる。
これこそが映画であり、演出なのだ。

クリス・ウェイラスは本作によりアカデミー賞特殊メイクアップ賞を受賞したが、それを活かしたのはクローネンバーグ監督の手腕による所が大きい。
クリス・ウェイラスが監督した続編「ザ・フライ2 二世誕生」の出来を見れば、それは明白だ。(2008.02.11)
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